先日、新潟県里親トレーニング事業 【フォスタリングチェンジ・プログラム体験講座】を受けてきました。
今回受けたフォスタリングチェンジ・プログラム体験講座は、ただモニターを見ながら講師の方の話を聞き、最後に『何か質問はありますか?』と言うような内容ではなく、動画や話を聞いて『子どもがこんな態度をとった時はどう感じますか?隣の席の方と話し合ってみてください。』と、自分たちが主体的に考え、講師の方は考えをサポートし、最後に具体例を挙げながら共通する点や適切なサポートの仕方などを説明してくださると言うような感じで進めてられていく講座でした。
今回はこのフォスタリングチェンジ・プログラム体験講座を受けて感じたことなどを書かせていただいています。
フォスタリングチェンジ・プログラムとは?
フォスタリングチェンジ・プログラムとは、1999年にイギリスの モーズレー病院の養子縁組・里親支援チームが中心となりめ始められた里親のためのトレーニングプログラムで、2016年に日本でもプログラムが導入されました。
プログラムは全12回あり
- 【課題】グループの立ち上げ、子どもの行動の理解と記録
- 【課題】行動に影響すること、先行する出来事と結果
- 【課題】効果的にほめること
- 【課題】肯定的な注目
- 【課題】子どもが自分で感情をコントロールするためのコミュニケーションスキル
- 【課題】子どもの学習を支える
- 【課題】ご褒美とご褒美表
- 【課題】指示を与えること、選択的に無視すること
- 【課題】肯定的なしつけと限界設定
- 【課題】タイムアウトと問題解決のための方法
- 【課題】終わりにあたってのまとめ
- 【課題】今後について、養育者自身のケア
となっています。今回は体験版ということで、プログラムの中の
4:【課題】肯定的な注目
【具体的内容】遊びの役割、アテンディング、説明的コメント
を、体験してきました。
フォスタリングチェンジ・プログラム体験講座
養育者との相互交流の重要性
講座は講師の方の自己紹介後、笑っている赤ちゃんの映像を見る事から始まりました。
笑っている赤ちゃんを見ているうちに自然と笑顔になり、会場も柔らかな雰囲気になりました。
このように笑っている赤ちゃんを見ると、自然と笑顔になったり、気持ちが和らいだりするのは私たちが発達の中でそれらを自然と得られてきたから。
生後間もないころから約2か月ごろまでは、新生児微笑と言って感情を伴う笑いではなく筋肉が動いているだけの反射的な笑いで、それを見た親が子どもに話しかけたり一緒に笑ったり、養育者との相互交流の中で、だんだんと感情が伴ったわらい社会的微笑に変わるのだそうです。
では、この親が子どもに対して話しかけたり、一緒に笑ったりすることがなかったらどうなるでしょう?
◆それに対して短い実験を行った動画を見ました。
子どもが笑うと親は話しかけたり、一緒に笑ったりします。
↓
それを一時的にストップすると、子どもは親に笑ってもらおうと働きかけをします。
↓
それでも親の反応がないと、子どもは泣き出し、また親が一緒に笑い始めると子どもも一緒に笑い始めました。
これは一時的な実験の映像でしたが、このように子どもに対して無反応な生活をずっと送っていたらどうなるのでしょうか?
◆それに対しては、重度のネグレクトを受け、保護された海外のお子さんの写真を見ました。
どの子も表情はなく、ぽーっとして、どこを見ているのか見ていないのかも分からないような眼をしていました。
このように養育者と相互交流がないとただの筋肉の動きの笑いから感情が伴った笑いになることが阻害され、自分の感情がわからなくなったり、感情のコントロールがうまくできなかったりして良い人間関係が築きにくくなります。
まだ言葉がわからない赤ちゃんでも、例えばミルクを飲んでいる時などに赤ちゃんを見て『おいしいね~』などたくさん話しかける事はこう言った点から見てもとても大切ですね。
社会的擁護で育った子どもたちが経験している事
社会的擁護で育った子が必ず経験している事として
- 両親や家族から離れる
- 知らないところで暮らす
という事があります。
中には複数の養育環境を経験している子もいますし、虐待などのトラウマを抱えている子もいます。
そう言ったストレスやトラウマによって表れやすい特徴として
- 信頼関係の形成の難しさ
- 攻撃性
- 傷つきやすさや過敏性
- 自己イメージの低さ(どうせ…やっぱり…)
などがあり、中には
- 虐待関係の再現傾向
養育者がかかわりたくなくなるような関係を作ろうとする場合もあります。
この、虐待関係の再現傾向の話を聞いて、以前ブログにも書いたのですが、家に委託された子の試し行動を思い出しました。
愛着形成と愛着の3パターン
愛着の形成は、子どもが成長して安定した良い人間関係を気付いていくためにはとても大切ですが、愛着の形成は養育者に自分の要求を表現でき、それを認めてもらえるというような相互関係を築いていく中で信頼や安心感を得ながら形成されていきます。
◆これについても実験をした映像を見ました。
まず初めに、知らない場所で親子が一緒に遊びます。
その後、親だけが部屋を出て、また子どものもとに戻る。
というような実験でした。
【1組目の子ども】
親が部屋を出ていく。
↓
子どもは後追いをして、泣きました。
↓
親が戻ってくると子どものほうから抱っこを求めました。
↓
しばらく抱っこしてから落ち着くとまた一緒に遊び始めました。
親が部屋を出ていく。
↓
子どもは後追いをして、泣きました。
↓
親が戻ってきて、抱っこをしようとすると、手を引っ込め、抱っこされても顔をよそに向け続けていました。
↓抱っこから降ろして、お母さんが一緒に遊ぼうとしても横を向いたままでその後、遊びになりませんでした。
【3組目の子ども】
親が部屋を出ていく。
↓
子どもは後追いをして、泣きました。
↓
親が戻ってきて抱っこしましたが、親がやさしく声をかけても大泣きして、子どもは怒っています。
↓親がおもちゃを手渡し遊ぼうとしても、子どもは怒っておもちゃを振り落としました。
ここでは、親が戻ってきた時の子どもの様子がどうだったかを見て、自分がこの子たちの親だったらどんな気持ちになるか?と言う事を参加者同士で話し合いました。
【1組目の子どもの親だったらどんな気持ちになるか?】
参加者で話し合った時には
ごめんね。・もう一人にさせないからね。・もう大丈夫だから安心していいよ。
と言う意見が出ました。
【2組目の子どもの親だったらどんな気持ちになるか?】
参加者で話し合った時には
どうしたんだろう?・不安になる。・しばらく放っておいて様子をみようか。
と言う意見が出ました。
【3組目の子どもの親だったらどんな気持ちになるか?】
参加者で話し合った時には
何してもダメならしばらく放っておく。・こっちの方が泣きたくなる。・どうしたらいいんだろう。
と言う意見が出ました。
その後、講師の方から【愛着のパターン】のお話がありました。
- 1組目のお子さんは→愛着安定型
- 2人目のお子さんは→愛着不安定回避型(こちらが働きかけても避ける)
- 3人目のお子さんは→愛着不安定抵抗型(怒りをぶつけてくる)
2組目のお子さんのパターンも3組目のお子さんのパターンも、特別な事ではなく、ある一定数存在していて、さらにこのパターン(愛着不安定回避型・愛着不安定抵抗型)のお子さんは、愛着安定型のお子さんに比べて圧倒的に虐待を受けやすいそうです。
確かに、こちらからの働きかけに対して無反応だったり避けられたり、怒りをぶつけられたら『どうすればいいんだろう』『私の事が嫌いなのかな』『何してもダメだし、こっちの方が泣きたいよ』と言う気持ちになる事もありますよね。
ただ、どの子にも共通して言えるのは養育者がいなくなったことに不安を覚え養育者を求めている。と言う事。
この時に大切なのが『この子は私の事が嫌いだからこうしているんだ。もう知らない!』と言うように子どもの感情に巻き込まれないようにする事だそうです。
もう1つ、目の前に現れている現象だけを見るのではなく『どうして怒ってるんだろう』『何わかって欲しいんだろう』とその子をよく見て心をその子に寄り添わせる事も大切だと感じました。
重度のネグレクトを受けて保護された子どもたちのその後
講座の最後に、一番最初に写真で紹介された重度のネグレクトを受け保護された子供たちのその後の写真が流れました。
保護された時には表情もなく、どこを見ているのか見ていないのかわからず、凍り付いたような瞳をしていた子どもたち。
保護された後、里親さんのもとで適切な養育を受けた子どもたちは、どの子も表情がとても豊かになっていて眼も輝き、生き生きとしていました。
最後に
子どもたちが成長していく中で、親が子どもを見守り、時には子どもを信じて何かを任せたり、励ましたりしながら愛情をもって接していくことはとても大切ですし、どの子も養育者からの愛情を求めています。
ただ、中にはトラウマを抱えていたり、愛着を形成するのに難しい子どもたちもいて、トラウマなどに対する適切なサポートや知識が特に必要な時もあります。
今回受講したフォスタリングチェンジ・プログラムはそれを知るためのツールの一つだと感じとても参考になりました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。